スケッチをするときに、見えているものすべてを描こうと思わないようにすると、気持ちが楽になります。紙の上すべてを見えているもので埋めるという発想はとりあえずは捨ててよいと思います。
全部描かなかったからといって、誰かが怒るわけではありません。貴方が納得していればそれでよいのです。絵に省略はつきものですが、ここでは一歩進めて「無視する」という態度で臨んでみましょう。描いて楽しいものだけを描き、あとは無視する。気分爽快。
たとえば風景をスケッチするときに、何を描き、何を描かないかの主導権は当然貴方の側にあり、風景の側にはありません。貴方が決めて良いのです。誰かの承認はいりません。紙のどの部分を使って描くのかも貴方が決めて良いのです。

Q:何でもアナタが決めて良いって言ってもねアナタ、それが決められないから苦労するわけですよ。
A:どのように決めれば良いのか、ガイドラインが欲しいということですか。
Q:講座を名乗っているわけだから何か教えてもらわないと。
A:なるほど。
ゆるゆるスケッチはまず「描かなくてもよい」から始まっていますから、その次、「描く」となった場合のもっともシンプルな形は「線が一本でも可」ということになります。スケッチは一本の線を描く楽しみから始まっているのですからそれでいいのです。二本、三本と、徐々に線を増やしていけばよい。線を描くことはスケッチを仕上げるための手段ではなくて目的である、くらいの気持ちでいいのではないでしょうか。結果としてスケッチが残るというか。これ以上線を増やしてもあまり楽しくないな、というところでやめればいいのです。そこにある何かがまったく描かれていなくても。

Q:何だかまた無茶なことを言い出していませんか。一本でいい?
A:目的は気持ちよく線を描くことにあるので、一本でもいいのではないかと。一本で描きなさいということではありませんし、逆に難しいですね一本だけで描くのは。
近所の階段
スケッチブックにサインペン
近所の階段を描いてみました。右側の石垣は面倒くさくなって途中でやめてます。「省略」になっていない。どうみても中断というか放棄というか未完というか、半端な状態です。
対して、階段を登った先はまったく無視しています。何もない。現場レポートとしては失格ですが、ここを青空として塗りつぶして描けば、ああそんな場所なんだなという絵になるわけです。

Q:自覚はあるようですが、こういう半端なものばかり描いていて、趣味として長続きするのでしょうか。描き始めたら最後までやり遂げないと。
A:ですから「最後」をどこに設定するのかは描き手に任されているのです。仰る通り半端に見えてしまっては失敗かもしれませんが、画面に空白が出来ることを恐れずに続けて欲しいと思います。義務感で描いても楽しくないでしょう?