描く対象の構造を無視する(月面画法)
気分を楽に描くことを最優先するために、ひとつの提案をしたいと思います。それは、スケッチをするときに「世の中はすべて平らだ。モノには奥行きも裏側もないのだ。ということにしておこう」と考えてみるというものです。
立体物を二次元の紙の上に再現するということを一切考えずに、見えたものを平らなものの形として紙の上に描き写していくのです。
夜空を見上げて三日月をスケッチするとしましょう。誰でも弓形の例のものを描くと思います。三日月はこれまた皆さんご存じのようにボール形の立体です。そこに地球の影ができて弓形に見えている。しかしそんな事を知らなくてもあれを描くことは可能です。明るい板が宙に浮いているのだとしても描いたものは同じようなものになるはずです。
であれば、林檎を平らな板と信じて描いていけないわけがない。
月を見て月の輪郭線を描くように、林檎を見てその輪郭線を描けばよいわけです。あらゆるものについて、この「世界は平らだ」を信じて描くことができれば、かなり気が楽になるはずです。貴方が描くスケッチは平らな紙の上にあるのですから、早い段階で平面にしてしまったほうがいいのです。いいのだろうと思います。たぶん。
「月面画法」によるスケッチ例。
最初は見慣れた形(この例では便座を上から見た形)を中心にした絵にすると描きやすいと思います。「こう見えるハズ」という先入観と、実際に見えている形が近いので安心できます。
見えているモノの形をできるだけそのまま、それがどんな機能をもったものであるかとか、実際の長さとか奥行きとか、「この角度だとこう見えるはず」などを考えないようにして、見えたままを描きすすめてください。あ、形がヘンだと気づいてもそのまま描ききってしまいましょう。
下描きは無しで
下描きをしておいてペンでなぞる方法は、あらかじめ完成した状態を想定して描き始めることになります。「設計→制作」という2段階になるといってもよいでしょう。これは想定外の絵もそのまま受け入れて楽しもうというお気楽スケッチの趣旨から離れていきますので、下描きという単語は辞書から削除しておいてください。立体の中心線や角度を判断するための補助線もやめて、ペンでいきなり描いてみてください。難しいことを考えずに1本の線を引きはじめる楽しさを味わっていただきたいと思います。
Q:スケッチというと雄大な自然の風景とかおしゃれな街角とか、そういうのを想像していました。いきなり便器ですか。
A:身近なモノからやってみようということで。便器でも何でも、描いてしまえば同じ一枚の絵です。昔からスケッチは便器にはじまり便器に終わるといいまして…
Q:嘘でしょう。
A:はい…。
Q:モノを平面として見るコツはありますか?
A:ぼーっとしてですね。何も考えないで、ぼーっと見ていると、そのモノ自体の意味とか奥行きとか、そういうのはどうでもよくなりませんか?ぼーっと見ていると平面的に見えてきたりします。
Q:なるほどそうだったのか。
A:何がですか?
Q:あなたはいつもぼーっとしていることが多い。
A:はい…。
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